はじめに
シンガポールは教育に力を入れている国として、世界から注目されています。その学びの特徴は、ただ勉強するのではなく、「考える力」や「つくる力」、「問題を解決する力」を育てることにあります。このページでは、そんなシンガポールの教育の魅力と、それを日本の家庭でも取り入れる方法について紹介します。
シンガポールの教育が注目される理由とは?
教育は国の未来をつくる大切な土台
シンガポールは小さな国で、自然の資源が少ないため、「人こそが一番の宝物」と考えています。だからこそ、国全体で教育に力を入れてきました。その結果、国際的な学力テスト(PISA)ではいつも高い成績を出しています。
勉強だけでなく、「自分で問題を見つけて、どうやって解決するか」を考える力を育てることが大切にされています。教育省は、社会やテクノロジーの変化に合わせて、学びの内容を常に見直し、今の時代に合った学びを提供しています。
一人ひとりに合った学び方ができる制度
シンガポールの学校では、小学校を卒業した後、学力や得意なことに応じて進むコースがいくつか用意されています。たとえば「エクスプレスコース」や「ノーマルコース」などがあり、自分に合ったペースで学べるのが特徴です。
授業では、グループで話し合ったり、発表したりする活動も多く、ただ覚えるだけでなく、「自分の意見を持ち、それを人に伝える力」や「考える力」が大切にされています。
社会全体で子どもを育てる文化
シンガポールでは、教育に関わるのは学校だけではありません。家庭や社会全体が協力して、子どもの学びを支えています。多くの子どもが放課後に塾(Tuition)へ通い、保護者も子どもの学びにとても関心を持っています。
企業や大学も学校教育に協力し、職場体験や社会の問題について学ぶ授業などを行っています。社会全体で子どもを育てるという考え方が、シンガポールの教育の強みです。
小学生から始まるSTEAM教育ってなに?
STEAMってどんな学び方?
STEAMとは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Arts)、数学(Mathematics)の5つの分野を組み合わせた学びのことです。これらの分野を一緒に学ぶことで、「考える力」や「つくる力」を育てることができます。
シンガポールでは、小学校からこのSTEAM教育が取り入れられていて、知識を覚えるだけでなく、「自分で考えて、やってみる」ことがとても大切にされています。
実際に手を動かして学ぶ体験がいっぱい
たとえば、「動くおもちゃを作る」という授業では、どうすれば動くかを考える理科の力と、見た目やデザインを工夫する美術の力の両方が必要です。自分で作ったものを発表したり、友だちからアドバイスをもらったりする中で、「考える力」や「伝える力」も育っていきます。
このように、「試す→工夫する→改善する」という体験を重ねることで、ただ正しい答えを出すだけでなく、「もっと良くするにはどうすればいいか」を考える力が自然と身につきます。
学校の外でもSTEAMを学べる環境がある
STEAMの学びは学校だけにとどまりません。シンガポールでは、塾や民間スクールでもロボット作りやプログラミングを学べる教室がたくさんあります。子どもたちは自分の興味やレベルに合わせて学ぶ場を選ぶことができます。
家庭でも、知育玩具や教育アプリを使って、親子で一緒に学ぶスタイルが広がっています。家庭・学校・民間スクールが一体となって学びを支えているのが、シンガポールの教育の魅力です。
ICT(情報通信技術)を活用した新しい学び方
タブレットやパソコンを使った授業
シンガポールでは、ICT(情報通信技術)を使った教育がとても進んでいます。ほとんどの学校で、生徒一人ひとりにタブレットやパソコンが配られています。
授業では、教科書だけでなく、動画やデジタル教材を使って学びます。苦手なところは動画でくり返し学び、得意なところはどんどん先に進むなど、自分のペースで学べるのがポイントです。
AIが学習をサポートする時代へ
AI(人工知能)を使った学習ツールもどんどん活用されています。たとえば、どこで間違えやすいかをAIが分析し、先生に知らせてくれることで、ひとりひとりに合ったアドバイスができるようになります。
また、子ども自身も自分の弱点を知ることができるので、「どうして間違えたのか」「どうすれば良くなるのか」を考えるようになります。ゲームのように楽しみながら学べるアプリも多く、学びが楽しくなる工夫がいっぱいです。
先生や家庭のサポートも進化している
ICTやAIが導入されたことで、先生の仕事も効率的になり、子どもと向き合う時間が増えています。宿題のチェックや成績管理はデジタルで簡単にできるようになり、先生は子どものサポートに集中できるようになっています。
保護者もスマートフォンなどで子どもの学習の様子を確認できるようになっていて、学校と家庭が一緒になって子どもを支える環境ができあがっています。
バイリンガル国家に見る“言語教育”の考え方
英語+母語の同時習得が当たり前の環境
シンガポールの教育で注目すべきもう一つの柱は、バイリンガル教育です。公用語として英語が社会全体に浸透していますが、それと同時に中国語、マレー語、タミル語といった各民族の母語教育が小学校から必修となっており、「英語+母語」の二言語環境が自然なものとして存在しています。
英語は国際的な共通語として機能し、学術・ビジネス・政治など社会のあらゆる場面で使われています。一方で母語の教育も、アイデンティティの確立や文化継承のために重視され、語学力に加えて歴史・宗教・慣習の理解も含まれる包括的な内容となっています。
家庭と学校が連携して育てる言語能力
このバイリンガル教育を支えているのは、学校だけでなく家庭の積極的な関与です。保護者は子どもたちに母語の絵本を読み聞かせたり、家庭内で母語を使って会話をしたりと、学校外でも言語習得の機会を作っています。家庭での言語環境が学校での学習効果を何倍にも高めているのです。
また、学校側も保護者との連携を重視しており、定期的な言語学習のワークショップや家庭学習のガイドを提供しています。言語教育は「学校が教えるもの」ではなく、「社会全体で育てるもの」という価値観が根付いています。
日本家庭に応用するには?英語を「学ぶ」から「使う」へ
このシンガポールの言語教育の考え方は、日本の家庭教育にも大きなヒントを与えてくれます。英語を「テストのための教科」としてではなく、「コミュニケーションのための道具」として日常生活に取り入れることがポイントです。
例えば、英語の絵本を一緒に読む、YouTubeなどの動画を英語で視聴する、簡単な英語で日常会話をしてみるといった工夫が挙げられます。親が完璧な英語を話せなくても問題はなく、「楽しむ姿勢」を共有することが最も大切です。
シンガポール教育を日本の家庭に活かす方法
探究心を育てる家庭環境の作り方
シンガポールの教育では、知識よりも「問いを立てる力」が重視されます。これは家庭でも同じで、子どもの「なぜ?」「どうして?」を大切にし、すぐに答えを教えるのではなく、いっしょに調べたり考えたりする姿勢が求められます。
親が「教える人」から「伴走する人」へと役割を変えることで、子どもは主体的に学ぶ姿勢を自然と身につけていきます。学びを強制するのではなく、「好奇心が引き出される環境」をつくることが何より重要です。
教科横断型の学び方を実践するには?
シンガポールでは、複数教科を組み合わせて学ぶ「教科横断型」のカリキュラムが重視されています。家庭でもこれを応用することが可能です。
たとえば、「食べ物」をテーマにすれば、
- 理科:栄養と消化
- 社会:世界の食文化
- 国語:説明文を書く
- 算数:分量や比率の計算 といったように、ひとつのテーマから複数の教科をつなげて学べます。
このような学び方は、知識の定着だけでなく、論理的思考力や表現力の向上にも効果があります。
市販教材や無料アプリでできるSTEAMの導入例
現在では、家庭でも手軽にSTEAM教育を体験できる市販教材や無料アプリが豊富に存在します。たとえば、プログラミングならScratchやSpringin'、科学実験なら市販の実験キット、アート表現ならデジタルお絵描きアプリなどが手軽に導入できます。
それらを「勉強」として構えるのではなく、「遊びの延長」として自然に取り入れることで、子どもが主体的に関わりやすくなります。親も一緒に楽しむことが、長続きの秘訣です。
家庭で始めるおすすめSTEAM学習アイデア
理科の実験を家庭で楽しむ“おうちラボ”
理科実験は、STEAM教育の入り口として非常におすすめです。材料も、身近なもので十分。たとえば、「水に浮く野菜と沈む野菜を調べる」「ペットボトルで簡単な噴水を作る」など、遊び感覚で取り組める実験が多数あります。
こうした体験を通じて、子どもは「自分でやってみたい」「結果が楽しみ」と感じ、自然と科学的思考力が育まれていきます。親が実験を「失敗してもいいよ」とサポートする姿勢も大切です。
ロボット工作やプログラミング教材の選び方
ロボット教材やプログラミング教材は、年齢や経験に応じて選ぶことがポイントです。
- 未就学〜低学年向け:ビジュアル型(例:LEGO SPIKE、KOOV)
- 中学年〜高学年向け:Scratch、micro:bit、MakeCodeなど
無料体験やスターターキットも多くあるため、まずは「試してみる」ことから始めるのが良いでしょう。子どもが夢中になれる教材を見つけることが成功の鍵です。
プレゼンごっこで育てる「伝える力」
STEAM教育では、アウトプット=表現する力も重視されます。家庭でも「今日学んだことをプレゼンする時間」を設けたり、「家族の前で発表するごっこ遊び」などを通じて、プレゼン力や自信を育てることができます。
スマホで動画を撮って記録に残すことで、子ども自身が成長を実感できたり、反省点に気づいたりする機会にもなります。
まとめ|未来を生き抜く子どもに必要な家庭教育とは
知識だけでなく「問いを立てる力」を育てる
シンガポール教育に共通するのは、「答えを教える」のではなく「問いを育てる」ことへの重視です。これは日本の家庭教育でも取り入れることが可能で、子どもの興味を尊重し、共に学ぶ姿勢が求められます。
「自分で学ぶ」姿勢を家庭の中で自然に育むには
毎日の中で、小さな「なぜ?」を見逃さず、一緒に調べたり考えたりすることで、「自分で学ぶ力」は自然と育ちます。親が“正解を教える先生”ではなく、“一緒に考える仲間”であることが大切です。
今日からできる3つのアクション
- 子どもの質問に対して「一緒に調べよう」と返してみる
- 毎週1つ「テーマ」を決めて親子で探究してみる
- 学んだことを発表する「家族プレゼンタイム」をつくる
こうした日常の積み重ねが、未来を切り拓く力を育てていくのです。シンガポールの教育モデルは、私たちに“子どもの可能性を信じて育てる”ことの大切さを改めて教えてくれます。